桑原 滝弥「ピキピキ夏山のドンバラ大放送♡」一部公開

立本夏山12ヶ月連続ひとり芝居「Twelve」9月に上演された

上演を観たお客様から寄せられました「詩を読みたい」という声にお応えして上演した詩の一部を公開いたします!


 

 

 

 

 

それでね 

話があっちこっち言っちゃったけど 

名古屋のホテルに話を戻すとね 

 

その日のステージは 

あたしがまだ駆け出しの頃に 

ある種育ててもらったようなライヴハウスでのパフォーマンスで 

しかもそこのステージに立つのは10年ぶりだったから 

いろんな感情やおもいや感覚が頭のなかで渦巻いてね 

 

だから終わったあと 

めずらしく朝まで打ち上げに付き合ったのよ 

そこの社長と数名のスタッフ 

それからなつかしい友人たちと 

 

いろんな話をしたわ 

そのどれもが楽しくて 

あっという間だったわ 

きっとすこし喋りすぎてしまったんだと思うわ 

 

それから午前5時にホテルに帰ってきて 

射精をしてシャワーを浴びて 

さあ眠りましょと思ったら 

眠れないのよ、これが 

 

興奮していて 

弾んでいて 

その上懐かしい場所でのステージだったから 

普段眠らせていたいろんな自分が一気に目覚めて 

口惜(くちお)しいような 

さびいしような感覚もあって 

なんだか自分のなかでうまく処理できずに 

複雑な心境だったの 

 

そのうちに 

鼓動が早くなってきてね 

息がしづらくなってきてね 

閉じ込められている感じがしてきてね 

シラフなのにノードラッグなのにノーメディスンなのに 

視界が歪んで来てね 

ピーーーーーーーーーーーーーーーー 

っていう耳鳴りがしてきてね 

吐き気がしてきてね 

悪寒がしてきてね 

汗が飛び散ってね 

身体がくさくてね 

内蔵がねじれてね 

関節が炎になってね 

目からビームが出てね 

口から悪魔が笑ってね 

これまでの人生がひどくて哀しくてね 

なにもかも虚しくてね 

素晴しい思い出が浮かべば浮かぶほど 

腹立たしくてね 

存在しているのが堪えられなくってね 

死にたいとか生きたいとかを超えて 

絶望してね 

 

くちーづーけをー かわーしたーひーはー 

ままーのかおー さえもー みれなかーったー 

 

ところで 

なんで今あたしが普段と違う口調で喋っているかというとね 

つまりはなんで女になっているかというとね 

普通にあたしのなかに女の自分はいるのよ 

他にもいろんな自分がいるけど 

これからする話を切り出すには 

この口調のあたしが一番ちゃんと 

事の次第を伝えられる気がしたからなの 

 

言葉は流れをつくる 

その流れのなかで人は生きている 

一種の波動ね 

 

口調もトーンも文体もキャラ付けも 

意味をはるかに超えて 

事物の意志を伝えるわ 

 

運命を変えたいなら 

喋り方を変えればいいだけ 

煮詰まった人が旅に出るのは 

そのためよ 

 

年齢も性別も経歴も 

実はそんなに大きな問題じゃない 

社会ではなくて 

宇宙と折り合いを付けるときには 

 

調べ、響き、そして沈黙 

それが言葉の 

音楽の、物語の、理(ことわり) 

 

性癖も 

政治的信条も 

宗教的価値観も 

芸術的良心も 

人間愛も 

そのための入り口でしかない 

 

演じてる? 

そりゃそうよ、死にたくないもの、演じるわよ 

まぎれもなく不確かなこの生身で、この性根で、 

この祈りの衝動で! 

演じない人間なんてこの世に存在しないわ 

死を決意した人間はより演じるしね 

 

ああ言葉があふれていく 

何も言いたくなかったはずなのに 

”言いたい”という認識や欲求や魂胆を超えて 

あたしのなかの何かが 

あなたに語りだす 

あなたの心の深いところに眠る 

もうひとりのあなたへ 

 

あなたの向こうの命へ 

あなたという宇宙の一部へ 

あなたという宇宙の全部へ 

宇宙というあなたへ 

そしてその宇宙の外のだれかまでも 

あなたわたしだれかあなたわたしだれかあなたわたしだれ… 

 

だから消えてはいけない 

フッと闇に入ってしまっては 

気づく直前に心臓を止めてしまっては 

一瞬楽に思えるけど 

その誘惑に騙されてはいけない 

 

ああ、でも消えてしまいそうで苦しい 

この高ぶりに包まれて 

言葉の波で生みだしたはずの 

自浄作用の力の反動が 

己の言の葉の前と後とで 

寄せては返し呑み込もうとする 

ここ午前5時38分の 

名古屋の安宿 

705号室で 

消えてはいけない 

あたし 

 

会ったこともないあなたと 

つながってなきゃいけない 

ああ、でも、でも 

 

苦しい 

身体があることが 

思考があることが 

意識があることが 

あることがあることが 

ものごころ付いてから 

ずっと気づかないフリをしてきた 

あらゆる場面での己の欺瞞の果てに 

いまがあることが 

 

瑞々しいまでの 

慚愧の息吹がわたし自身を 

窒息に追い込む 

そしてほら 

よく見てごらぁなさい 

こんなにも苦しいのにわたしはまだまだ欺瞞だ 

きっとくたばる0,1秒前までインチキだろうよ 

 

あははは 

んだからよお 

おらはよお 

なんもねえのさ 

なんかあって苦しいならばよ 

生きるのも 

死ぬのも 

決めやすいっさ 

 

だけど 

な~んもんねえの 

おら 

 

ただ苦しいの 

失敗とか 

挫折とか 

依存とか 

借金とか 

失恋とか 

恥さらしとか 

裏切りとか 

そんなドラマチックじゃないのっさ 

ただシラフで 

アドレナリンも出てなくて 

ただ、ただ、激痛 

 

もうやんなったんだ 

もっともらしいこと言って 

もっとも”もっとも”から遠い 

俺自身の批評家でいるのが 

人間のつくったその場かぎりのその場の連続のひとときを 

いかに奇麗にすり抜けていくかなんて 

クソだぜ、おい 

教授 

社長 

大家 

店子 

学生 

市民 

タワーマンション 

AI 

次々に一般化されていく新しい言葉と 

それを使いこなした気になって 

使われてつづけていく 

インテリ 

プチブル 

マイルドヤンキー 

危険な芸風の無難なバンプちゃん 

インポテンツ魂の 

 

だからこんな言葉も意味がねえんだってば 

 

なんでこんなことになったんだ 

今夜のステージは悪くなかった 

それが悪かったんだろう 

結果論 

 

みんなやさしかった 

みんなに愛されているのもわかった 

ゆえにみんな人殺しだ 

ちょっとしたことで人殺しだ 

だれかれも 

陰謀論 

 

ホテルは安いなりに快適だった 

仕事はそれなりに順調だった 

プライベートにも恵まれている 

風はここちよかった 

人生をふと振り返り 

やさしい独り笑いを浮かべるには 

ちょうどよいタイミングだったのだろう 

つまりは油断した 

崖が待っていた 

救いのない 

救い 

よくある話 

終末論 

 

気づいたときには 

浅い呼吸をするのがやっとで 

瞳孔は開きすぎて 

何か吐き出したいが 

生気のない唾液しか出なくて 

その勢いも刻一刻と弱まっていって 

身体が、皮膚が、毛が、爪が、 

筋肉が、関節が、内蔵が、血液が、 

ありとあらゆる己の細胞がここにあると感じることが 

不快で堪えられない 

あと金玉が無駄に暑い 

汗、汗、汗、 

息、息、息、 

涙、涙、涙、 

しょんべん、しょんべん、しょんべん、 

 

ああああああ 

あと声も堪えられない 

「声がいやだ~」 

と声に出してみる 

するといくぶん楽になるが 

このあとさらに強い不快感が襲ってくる前の 

一種の凪の状態だということが 

激痛馴れして来てわかりはじめている 

 

しかし何よりも!!! 

一番堪えられないのは 

心の声じゃ 

つまりは思考 

おもいかんがえかんじめぐらせる回路 

そんなものが”わし”なんじゃろう 

それがいやじゃあ 

ロクなもんじゃねえ 

ただ真っ白になりたい 

おもいたくない 

かんがえたくない 

かんじたくない 

めぐりたくない 

でも消えたくない 

でもでも 

このつらさには 

もうすぐ堪えられなくなりそうで 

消え・・・ 

そう・・・ 

だ・・ 

 

ケケケケケケ 

ケケケケケケ 

ケケケケケケ 

おまえが今まで生きてきて 

ごましかしたこと 

逃げたこと 

開き直ったふりをして 

形を保ったすべての惨めさ 

残酷さ 

恥知らさ 

薄っぺらさ 

いいかげんさ 

中途半端さ 

弱さ 

弱さよりももっと 

救いのない強さ 

心でおもった卑劣さ 

刹那念じた醜悪さ 

無意識の罪 

ささささささささささささ 

ぜ~んぶ、見ぃてたぞ~ 

ケッケケケケケケ 

 

これからおれはおまえに取り付いて 

おまえであそばしてもらうからにゃ~ 

おまえがさんざっぱらこの世界で 

命を、心を、胎動を、もてあそんできたようににゃ~ 

おまえの魂は真っ黒でくさくてもう手後れだ 

死んでも逃がさない 

いや、死ねば死ぬほど近づいていく 

一体化できるのにゃ 

ふぎゃ~ 

 

夏山! 

ピキピキ! 

大放送! 

ドンバラ! 

鏡を見ろ! 

見よ! 

 

おまえも 

やれ表現だ 

エンタメだ 

芸術だ 

のたまって 

嘘で商売してんならよくわかってるだろ 

心でついた嘘が 

一番罪が 

重いってことを 

 

おまえはおれだ 

おれは客だ 

客は鏡だ 

鏡は矛盾だ 

矛盾は真実だ 

真実は馬鹿だ 

馬鹿は人間だ 

人間はおまえだ 

 

おまえだ 

おまえだ 

おまえだ 

あたしだ 

おらだ 

わしだ 

ぼく! 

 

ぼくは 

どう生きてったらいいの 

ここから 

 

パパ… 

ママ… 

ピキ… 

 

 

 

ハッピーバースデー 

我が子よ 

 

ハッピーバースデー 

なんでもいいから 

 

ハッピーバースデー 

ボーっとしなさい 

 

ハッピーバースデー 

立派じゃなくていいから 

 

ハッピーバースデー 

ボーっとすることに集中しなさい 

 

ハッピーバースデー 

集中することにボーっとなさい 

 

ハッピーバースデー 

楽にボーっと 

 

ハッピーバースデー 

命懸けでボーっと 

 

ハッピーバースデー 

なんも言わなくていい 

 

ハッピーバースデー 

なんも伝えなくていい 

 

ハッピーバースデー 

なんも黙らなくていい 

 

ハッピーバースデー 

なんも祈らなくていい 

 

ハッピーバースデー 

ディープインパクト ジャニー喜多川 モンキーパンチ 

 

ハッピーバースデー 

内田裕也 萩原健一 ザ・デストロイヤー 

 

ハッピーバースデー 

ピーターフォンダ 遠藤ミチロウ ケーシー高峰 

 

ハッピーバースデー 

自縛ポエトリーうい ドナルドキーン ともちゃん9さい 

 

ハッピーバースデー 

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ハッピーバースデー 

ねえ、キスしくれないかな? 

 

ハッピーバースデー 

))~(~')$)$("')={){(%0`{Q""(0~))~'~'=&0""% 

 

ハッピーバースデー 

ん~~~、ピキピキ!!! 

 

ハッピーバースデー 

0~##=)0|{)#!!=)')%($($(%)&0&=~0=~&)"' 

 

ハッピーバースデー 

なんか なにか なのです 

 

ハッピーバースデー 

(=((~'=&0&)$'#&""#&=()){)){((&$&#%"&())'$&"$)'~(='##"&0=~0=&=~… 

 

ハッピーバースデー 

夏山さん夏山さん夏山さん夏山さん夏山さん夏山さん… 

 

ハッピーバースデー 

言葉は光を目指す 

 

ハッピーバースデー 

光速は一秒間に地球を七週半、月まで二秒、太陽まで八分二十秒 

音速は地球を一周するのに三十二時間、月までだと十三日と六時間… 

というかそもそも真空では分子が存在しないので音は伝わらないから 

太陽なんて夢のまた夢 

 

ハッピーバースデー 

ならばなぜ人は言葉で祈る? 

 

ハッピーバースデー 

人類はなぜ言語を手に入れた? 

 

ハッピーバースデー 

ものごごろつく前のわたしよ 

 

ハッピーバースデー 

ものごころついた後のわたしよ 

 

ハッピーバースデー 

ものごころやがてつかなくなるわたしよ 

 

ハッピーバースデー 

もののあわれよ 

 

ハッピーバースデー 

わたしのなかの子どものままわたしよ 

 

ハッピーバースデー 

わたしのなかのあなたよ 

 

ハッピーバースデー 

わたしのなかの神のままのだれかよ 

 

ハッピーバースデー 

だれかのなかのわたしよ 

 

ハッピーバースデー 

心よ 

 

ハッピーバースデー 

しゃべるな 

 

ハッピーバースデー 

魂よ 

 

ハッピーバースデー 

うたえ 

 

ハッピーバースデー 

命よ 

 

ハッピーバースデー 

ひびけ 

 

ハッピーバースデー 

光よ 

 

ハッピーバースデー 

あれ 

 

ハッピーバースデー 

やっと会えたね 

 

ハッピーバースデー 

お別れだよ 

 

ハッピーバースデー  

ディア ディア ディア ディア ディア… 

 

ハッピーバースデー